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2005.09.22

アジャイル型人生、アジャイル型社会

●システム開発の話

 会社の経理システムとか、注文処理システムとかを作る仕事があります。「システム開発」と呼ばれるものです。銀行のオンラインシステムや、ココログのシステムも同様で、SEと呼ばれる人たちがやる仕事です。

 で、どうやって作るのか?簡単に言うと、

第1段階.システムの機能を確認
第2段階.設計する
第3段階.プログラミングする
第4段階.テストし、不具合を修正
第5段階.カットオーバー(稼働)

 という手順を踏みます。

 そして、ここが大事なところですが、システム開発の哲学として

「各プロセスを完璧にやる」
「一度OKが出て、次の段階に進んだら、基本的には前に戻らない」

 というものがありました。システムの詳細な機能まで、開発当初から定めようとします。そのかわり、設計段階に入ったら、「あ、この機能も付け加えといて!」という機能変更には(基本的には)応じない、ということになります。これを「ウォーターフォール型開発」といいます。

 「ウォーターフォール」とは、一つ一つの段階が、1→2→3と下っていく階段の様な水槽になっていて、そこを水が落ちていくイメージです。

 今でも、このウォーターフォール型開発が主流ですが、最近、違う開発手法が注目されています。それが「アジャイル型開発」です。


●アジャイル型開発とは

 アジャイル型開発の手前に、まず「反復型開発」というのがあります。「最初から全ての機能を網羅して設計するのはむりなので、できる機能からプログラミング・テストし、システムをつくる。それを繰り返し、システムを雪だるまのように育てていく」という方法です。

 いろいろと変化するニーズに対応したり、不具合に対応するためには、コチラの方がいいですよね。現に、秀丸エディタやSleipnirなどの優れたフリーウェアは、細かいバージョンアップを繰り返し、どんどん機能拡張していきます。しかも、「開発者は一人」という効率性です。

 じゃあなぜ、会計システムなどの開発でそれができないか?「フリーウェア」と「システム開発」の間には、大きな違いが二種類あって、それがシステム開発においてウォーターフォール型開発から進歩できない「壁」になっています。

・フリーウェアは無料であるし、実現する機能は、作者が判断する。
・受託システム開発は、「この機能を実現するシステムを、いくらでつくってほしい」という見積・契約関係が発生する。反復型開発は、見積時には仕様も金額も固まっていないので、ビジネス取引上ふさわしくない。

 という「商習慣の壁」。そして、

・よくあるフリーウェアは、一人で開発している。
・システムは複数の人間で開発する。機能毎の分担なら楽だが、反復型開発は全員が全体機能を常に把握していなければならない。

 という「役割分担の壁」です。

 アジャイル型開発とは、これを乗り越えようとする姿勢なのです。「役割分担の壁」は、綿密なコミュニケーションや、コードの共有などのルール決めで実現しようとしています。メンバーの一人が、ある特定部分の仕事を引き受け、そのアウトプットさえシッカリしていればいい、という考えではありません。仕事に対する姿勢や考え方まで、お互いを知ろうとしています。

 そして「商習慣の壁」を破るためには…「勇気」を提言しています(^-^;。最初は人柱が発生すると思いますが、やがて競争と淘汰が起こり、効率的な方法である「アジャイル型」が選択されていくことになるのでしょう(と、みなさん仰います)。


●そしてアジャイル社会とか人生とか

 前フリが長いですが、要は「今の社会とか人生プランとかって、ウォーターフォール型だよね」と思ったのです。

プロセス1.人生プラン
プロセス2.新卒での就職活動
プロセス3.ひとつの仕事に従事、終身雇用
プロセス4.成果に応じた地位・財産
プロセス5.棺を蓋うて事定まる

 うまくいけばこれがベストなのでしょうが、そう行かない人の方が多いはず。

 本当は反復型人生をしたいんだけど、それができない。

 その要因には「雇用習慣、人間評価方法」の「壁」があったり、「他人は他人、自分は自分」の「壁」があったりするわけです。

 前者の「雇用習慣・人間評価方法」の壁を打ち破ろうとするのは、すごく難しいと思うのですが、実は世の中が変わってきていて、こちらの壁は地滑り的に崩れつつある様に思います。(インターンシップ制度とか、中途採用とか)

 問題は後者です。自分の人生論だけで人生を生きていて、他人のことは知らない、となっている社会では、この壁は乗り越えられません。一人一人、社会における広範な知識が必要で、さらに、他の人のことを知ろうとすることが必要です。そして、自分のことを分かってもらおうとする姿勢が必要です。

 いつまでも、ただのワイドショーの視聴者でとどまっていてはいけないのです。

 日本人の美学「和を以て尊しと為す」。この「和」を、「出る杭になってはいけない」という「行動の共通化」の意味だけで捉えないようにします。そしてアジャイル的な「和」、つまり「知識、感覚の共有化」「積極的コミュニケーション」を推進した方がいいと思うのです。

 もちろん、何事もバランスです。

 一つの夢に向かって邁進するプロジェクトX的な人生も素晴らしいと思います。それは、プロセス1~5の周期が30年くらいかかるような仕事・事業なのでしょう。しかし、これが7年程度のものがあってもいいし、もっと短い反復があってもいいわけです。

 そのためには、アジャイル型人生、アジャイル型社会が必要なのではないか、と思ったのでした。

 「アジャイル」とは「機動力のある」、というような意味です。システム開発の哲学から社会学を考えるのもオモシロイと思います。

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