久しぶりにも程がある
今から20年ほど前、小学校高学年の頃、親子3人で横浜中華街に行きました。
「同發」で中華料理を食べ、その帰りに「ブラジル」という名の喫茶店に寄りました。
今でもこの店は営業していますが、場所は今と違い、メイン通り沿いにありました。当時は、資料館に展示されそうな風格のある喫茶店で、「ガシャガシャ」と音を立てる、すごく古いレジスターがあったのを覚えています。子供心ながらに雰囲気を感じていました。
コーヒーを飲んでいると、店のドアから一人の老人が入ってきました。髪の毛は少なく、すこしほっそりした中国系のおじいさんです。白いシャツを着ていました。
彼は、私達の隣のテーブルに座っていた、やはり華僑らしき70歳くらいの男性に近づき、話かけました。日本語でした。
「ここにいるって、聞いたもんだから」
「それにしても、久しぶりだなぁ。何年ぶりだ?」
私も、その話し声を何気なく聞いていましたが、次の一言に驚愕したのでした。
「…そうだなぁ、もう、50年ぶりだよな」
親子3人で、思わず振り返ってしまいました。
「そんなになるかぁ?…そうだよな。だってまだ終戦前だもんなぁ」
引き続き話を聞いていると、どうやらドアから入ってきた方の老人は、戦争前に中国本土に渡り、ようやく日本に戻ってきたらしいのです。親しげで、実に穏やかな二人の口調は「ホントに50年ぶりなのか?」と思わせるほどでした。
「そこの店の前で別れたのが最後だったよな」
「そうだな」
「そういや、この街は思ったより変わってないな」
その老人達の、まぶたの下がった穏やかな目を見ながら、初めて「50年」という時間を想像していました。小学生ながらにコーヒーを味わった、思い出深い横浜の夜でした。
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