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2006.08.21

オシムの言葉

 ジーコの後釜、サッカー日本代表オシム監督についての書籍です。本屋で手に取り、少々高い価格と微妙な表装でしたが、迷った末に購入しました。読み始めたら、実に興味深い内容で、一気に読み切りました。高い価格に見合う、満足度の高い本でした。

オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見える
木村 元彦
集英社インターナショナル (2005/12)

 旧ユーゴスラビア、クロアチア出身。ユーゴ代表監督としてW杯ベスト8という輝かしい経歴があります。その後内戦が勃発してユーゴ代表が解体。戦争と隣り合わせのサッカー人生。書籍の中で「スラブ系のこの民族は、ヨーロッパの火薬庫を生き抜く中でユーモアを重視する」といった内容があります。

 表題にもあるとおり、彼から発せられる言葉が注目されています。

---

 (肉離れをして退場した選手の事について)「ライオンに襲われた野うさぎが、逃げ出すときに肉離れするか? 準備が足りないのだ」

 (チームが休みになる前に)「大変残念なことに7~8日間、休みを与えなければならない。ただ、休みから学ぶものは何もない」

 (積極性のないゲームに対して)「サッカーは危険を冒さないといけないスポーツ。それができなければ、塩とコショウのないスープにするようなものだ」

 (敗戦を喫したチームに対して)「今日唯一良かったことは、最悪のプレーをした選手が、全員だったということ」

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 彼自身の中に、確固としたサッカー論、そしてマネージメント論があるということが見て取れます。

 それにしても、この抽象的な言い回し、あるいは比喩の多用は、どういう意図なのか?質問に対してまっすぐ答えず、あえて変化球で答える理由はなんなのか?

 それは、彼の目指すサッカースタイルとも関係があると思います。

 『レーニンは「勉強して、勉強して、勉強しろ」と言った。私は選手に「走って、走って、走れ」と言っている』

 走るサッカー、とも言われていますが、選手のポジションを固定化せず、前から2段目の選手が、1段目の選手を追い越してシュートを打つなど、ポジションをダイナミックに動かさせます。

 これにより、相手がどんなに守備を固めてきても、かく乱して隙をつくことができるのです。そんなダイナミックなサッカーが、オシム流です。

 話を戻して、彼の言い回しについてですが、記者の質問に素直に答えないというのは、ダイナミックな質疑応答をしたいからだと思います。ダイナミックでないということは、記者が質問をした瞬間に、もう答えも決まっているわけです。そんなやりとりを、オシムはしたくないのでしょう。

 言葉を走らせる、記者の意識を動かす、そんなことをしながらイメージをつくって、答えを出そうと思っているのではないかと思います。彼がカードゲーム好きである(移動中はいつもトランプをしている)ということも、この「局面」をダイナミックに変えるという行為を好むところからきているのではないかと想像します。

 変化について来れない奴は置いていく、そんな姿勢が見て取れます。まわりからは多少煙たがられているようですが、代表監督、しかもモラルのそれほど高くない軍団を率いているということであれば、それぐらいの意識は必要なのかも知れません。

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