野趣あふれる

　「あなたって、時々難しい言葉をつかうのよね」

　彼女はそう言った。「会話を遮ってはいけないと、一応わかった振りをするんだけど、私はそこからついていけなくなるのよ」

　なにか難しい言葉を使ったかな、と自省して見るも、思い浮かばず。「俺、何言ったっけ？」と聞き返すと、「だから、やしゅあふれる、って、どういう意味？」

　「野趣あふれる」がひっかかったようである。温泉に行こうと、旅館の話をしていたのだった。

　「えー、だって、野趣あふれる温泉とか、野趣あふれる料理とか、言うじゃない？」
　「だから、それじゃ分からないってば。どういう“意味”なの？」
　「意味は……“天然”とか、自然そのまま、とか。あ、ワイルドっていえばわかりやすいかな？野生の“や”に、趣味の“しゅ”だよ。」
　「あー、そっちなんだ。私はてっきり・・・」

　ここで、思いもよらない答えが帰ってきた。

　「私の頭の中に、ちっちゃい野球の選手（※野手）がわらわらと思い浮かんできて、そこから先の思考が止まってしまったのよ。それぞれ『しまっていこー』みたいに叫んでて。」

　しばらく笑い転げてしまった。温泉に行くまでもなく、自然そのままなのは、こっちの方だったか。